酒飲みの脳卒中
- 盛岡減量研究所
- 2015年3月12日
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先日、私と同年配の男性患者が「私より若い飲み仲間が、二人ほど脳梗塞を起こしたので(私も)心配だ」と外来と訴えた。なるほど昔から酒飲みには脳卒中が多い。私の祖父も大酒飲みで48歳の年齢で脳卒中を起こし以来、半身不随の生活を25年送って亡くなった。しかし、なぜ大酒飲みに脳卒中が多いのか考察してみた。基本的に脳卒中は脳梗塞と脳出血に分類されるが、脳出血の中には脳梗塞後の脳出血も多く出血性脳梗塞とも呼ばれるものも少なくない。よって、この紙面では脳卒中イコール脳梗塞として扱う。
お酒すなわちアルコールには利尿作用が存在する。アルコールを摂取すると心拍数は上昇し、結果として末梢血管抵抗は低下し血圧を維持するように作用する。血圧は1回心拍出量×心拍数×末梢血管抵抗で規定される。つまり心拍数が上昇したたままでは血圧が上昇してしまうので、正常な人間では末梢血管抵抗が低下して循環の恒常性を維持するのだ。これはアルコールの持つ薬理作用の一つなのだが、飲酒による体液過剰と末梢血管抵抗の低下の結果、腎動脈は拡張し利尿が亢進する。
アルコールを連続、長時間摂取し続けるとさらに利尿が亢進して、ついには脱水に至ると推測する。飲酒時には脱水になることは稀だが、飲酒後に就寝した場合、就寝の間にも利尿作用は続いている。何故なら、飲酒を中止したからといってアルコールは相当量、体内に残留している。結果、夜間睡眠中にも利尿が亢進し、体内からアルコールが抜ける未明から朝方に脱水状態が完成する。その時に、脳の血管が詰まり脳梗塞を生じる経過が一番考えやすい。
またこの時、重要な事象がある。それは利尿作用というのは、水だけ体外へ排出されるのではなく同時に塩類(ナトリウムやカリウム)も失われる。これは利尿剤やSGLT2阻害剤を投与した時だけでなく、アルコールを摂取した場合にも、水だけでなく塩類も喪失する。例えば夏季に大汗をかいた時、冬に長時間電気毛布を使用した時も同様だ。大酒飲みは夜間睡眠中に塩類欠乏性の脱水症を生じている可能性が大いにある。おそらく高齢者の起床時の起立性低血圧も夜間(塩類欠乏性)脱水症が原因だ。
大酒飲みには巨大赤血球症の人が少なくないが、私の推論では長時間の大量飲酒により血漿浸透圧が低下したため生じた、単なる赤血球の膨化だと考える。教科書的にはアルコールによる肝機能障害のためビタミンB12や葉酸の利用障害が原因などと書いてあるかもしれないが、私は血漿(細胞外液)と赤血球(細胞内液)に浸透圧に圧格差が生じ、血漿の水が赤血球細胞内に移動した結果であろうと考える。
ちなみにドクターなら下記式をご存じであろう。
血漿浸透圧≒2Na+血糖値/18+尿素窒素/2.8
かつ、血症浸透圧≒細胞外液浸透圧=細胞内液浸透圧
すなわち、大量飲酒・長時間飲酒によりNaは減少(低下)し、またアルコールによる糖新生抑制から場合によっては血糖値も減少(低下)する。すなわち飲酒により血漿浸透圧は減少(低下)する。また生理学的に細胞外液と細胞内液の浸透圧は常にイコールである。つまり大赤血球症は血漿から赤血球細胞内に水が単純に移動し膨化したのだと考える(たた赤血球は細胞膜を有するため短時間で水が移動することがないのでNa、K、BS正常で、かつ大酒飲みはMCVが大なのだと推測する)。
となると、大酒飲みは飲酒開始から翌日のアルコールの代謝が終了するまでの間、利尿が亢進して夜間に低浸透圧性脱水症の状態が進行していると考えるならば、飲酒時には何らかの食品を必ず摂取しなければならない。特に塩類の摂取は不可避であろう。とりあえず大酒飲みは何も食べずに、肴なしで酒を飲むことは回避しなければならない。人間のダイナミックなエネルギー代謝を考えるとNHK的な「減塩社会」はいつも正義とは限らない。