亜急性甲状腺炎劇症型?
- 盛岡減量研究所
- 2017年5月18日
- 読了時間: 3分

先日、当クリニックの40歳代の女性看護師が突然の発熱と背部痛、さらに両下肢のしびれと脱力を訴えた。3日前に全身の掻痒を訴えて、以来倦怠感が出現したが、それに続いて発熱、背部痛、両下肢脱力が出現したのだ。血算で白血球は軽度上昇し、CRPも軽度上昇、検尿で潜血2~3+、尿中白血球3+であったので腎盂を含めた尿路感染症を疑い泌尿器科を紹介したが、問題なしであった。
日増しに、しびれと脱力が悪化し呼吸回数が増大し呼吸器症状も出現し始めた。また顔面からの発汗も多く外来で立っているのも困難な状態に陥った。私はギランバレー症候群を考え、石巻日赤の救急外来への受診を勧めた。その石巻日赤での診断は腰椎ヘルニア(疑い)ならび甲状腺腫瘍であった。腰椎ヘルニアについては後日、気仙沼市立病院整形外科に紹介し甲状腺については日赤内科再診ということになった。
しかし呼吸困難については原因不明で、自律神経障害による過呼吸症状だと判断されたようだ。また発汗過剰や動悸も自律神経ということで説明を受けたようだ。しかしクリニックに出社すると下肢のしびれと脱力、発汗、発熱は続いていた。最悪の場合ギランバレー症候群を考えつつ、甲状腺ホルモンの過剰の状態、すなわちバセドウ病や亜急性甲状腺炎も考えてみた。
日赤のデータを見たところTSH正常範囲内低値、FT3正常範囲内高値、FT4は高値かつサイログロブリン異常高値であった。また経過中低Na血症、低K血症を呈することもあったようだ。
この経過をすべて勘案して導き出した結論は亜急性甲状腺炎。もしかすると一過性の副腎クリーゼを生じた可能性もある。急激な甲状腺ホルモン過剰状態になると全身掻痒がでることもあるらしい。またバセドウ病では低Kによるとされる周期性四肢マヒが出現することがありギランバレー症候群と鑑別診断を要する場合があるという。
過剰な甲状腺ホルモンは副腎皮質を抑制する可能性があり副腎クリーゼ的な症状、すなわち低Na血症や血圧低下、呼吸困難を呈する可能性がある。あるクリニックの資料ではバセドウ病ではFT3/FT4>20だが亜急性甲状腺炎ではFT3/FT4<20ということである。サイログロブリン異常高値でFT4のみ高値を示し、甲状腺に結節を認めたというのであれば亜急性甲状腺炎で説明可能だ。
背部痛は背部の筋肉痛、下肢のしびれ脱力は周期性四肢麻痺的な症状と考えられないか。発病から約3週間、現在、彼女の症状は8割方改善しており日常業務を通常通りこなしている。再燃しないことを願いたい。
追伸:さらに2週間後TSH、FT3,FT4は正常化し、サイログロブリンはやや高値。下肢のしびれ、背部痛は消失、呼吸困難や発汗異常は消失。本人の話では99%改善したという。今の時点ではギランバレー症候群ではなく一過性の甲状腺機能亢進症つまりバセドウ病というより亜急性甲状腺炎の診断で間違いないと考える。