糖尿病外来の肝癌実態調査を開始【JASSO 2016】 m3comより
- 盛岡減量研究所
- 2016年10月28日
- 読了時間: 6分

糖尿病外来の肝癌実態調査を開始【JASSO 2016】 m3comより
非B非C型肝炎患者数、20年で5.3倍に増加
日本肥満学会2016年10月12日 (水)配信 一般内科疾患消化器疾患内分泌・代謝疾患
肝細胞癌(以下、肝癌)の原因の大部分はC型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスの持続感染が占めてきた。しかし、医療体制の充実によりこれらの原因による肝癌は相対的に減少。一方、非B非C型肝癌の増加が問題となっている。東京都で開催された第37回日本肥満学会(JASSO 2016、10月7-8日)で、日本肝臓学会との合同シンポジウムが初開催。東京大学がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン消化器内科特任講師の建石良介氏が、非B非C型肝癌の最新動向を概説した。建石氏によると、アルコール以外の複数の因子が同肝癌に関連すると考えられるようになっている。特に注目されているのが糖尿病で、近日中に糖尿病外来における肝癌の全国実態調査が行われる予定。
大腸癌や膵癌を上回る増加率
厚生労働省の人口動態統計による肝癌罹患率に基づく非B非C型肝癌患者数は、1992年に2200人程度と推計されていたが、2009年頃から1万人を突破。建石氏は現在、約1万4000人程度に増加しているとの見方を示す。同じく増加している大腸癌や膵癌の20年の患者増加率はそれぞれ1.6倍、2.1倍であるのに対し、非B非C型肝癌の同増加率は5.3倍に上ると考えられ「単一疾患とした場合、最も増加している癌の1つ」と指摘する。
日本の糖尿病患者の死因トップは癌
非B非C型肝癌というと、かつてはアルコール性肝障害(ALD)が主因と考えられてきた。しかし、建石氏によると高度成長期の時期以降、国民のアルコール消費量は横ばい、あるいは減少傾向にあることから、アルコールは同肝癌増加の大きな原因ではないと考えられるようになっている。そうした中、新たな原因として注目されているのが大腸癌や膵癌とも関連が指摘される肥満や糖尿病などの代謝異常だ。
2007年、日本糖尿病学会が行った糖尿病患者1万8385例の死因調査による死因トップは悪性新生物(34.1%)、次いで血管障害(26.8%)、感染症(14.3%)(糖尿病 2007; 50: 47-61)。欧米と違い、日本では糖尿病患者の死因の第1位が心血管疾患でなく悪性新生物となっている。中でも悪性新生物の1位は肝癌で、同死因全体の8.6%を占めていた。また、同調査では肝硬変による死亡も4.7%確認されていたことから、糖尿病患者は少なからぬ割合で肝疾患により死亡しているとも言える。
「アルコール」「NAFLD」のみの分類は困難
この結果を受け、建石氏らは2012年、非B非C型肝癌に関する後ろ向き多施設共同コホート研究(INUYAMA NOBLESSE STUDY)を実施。国内で肝疾患の専門診療体制を有する53施設で1991-2010年末に診断されたHBs抗原陰性、HCV抗体陰性の初発肝癌患者のデータを収集し、患者背景や各種所見、治療内容などを解析した(J Gastroenterol 2015; 50: 350-360)。
同コホート内の全肝癌に占める非B非C型肝癌の割合は1991年の10%から2010年には24.1%に増加。5326例の背景肝疾患の分類からは、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease; NAFLD)が11%、アルコールが27%だった一方、「分類不能」が54%を占めた。建石氏は、同検討ではアルコール消費量が自己申告であり、過小報告の可能性が排除できないこと、肝癌と診断される時期には肝脂肪蓄積が消失し、NASHの存在が証明できなくなる(burned out NASH)といった限界があると指摘。「分類不能」の患者にもNAFLDやALDが含まれると考えられることから、非B非C型肝癌を単純な飲酒量や脂肪肝の有無以外の基準で分類していく必要があるとの考えを示した。
発見時の腫瘍サイズ、4分の1が「10㎝以上」
この他、同肝癌ではHCV慢性肝炎患者と違い、肥満が多い(BMI25以上39%)、肝硬変なしの割合が33%、Child-Pugh分類Aの割合が69%など、必ずしも背景因子の均質性が高くない。また、ウイルス性肝炎と違い、検診などでの慢性肝炎や肝硬変発見を機にしたフォローアップがなく、かなり進行した状態で発見される実態も浮かび上がった。建石氏によると、同検討で画像での経過観察が行われていなかった割合は約60%、肝腫瘍破裂や腹部膨満感といった症状をきっかけに発見された割合が19%、肝癌発見時の腫瘍サイズは有症状者において7㎝(中央値)、10㎝以上が25%を占めるといった特徴もある。
全国344施設で糖尿病合併肝癌症例を登録
非B非C型肝癌を早期に発見し、治療するにはアルコールやNAFLD/NASH以外の高危険群の同定が必要となる。同検討では糖尿病がNAFLD例の63%、分類不能例の46%、アルコール性肝障害例の45%に合併していることも明らかになっている。
建石氏らは2016年7月、日本肝臓学会と日本糖尿病学会合同疫学研究「糖尿病外来における肝細胞癌発生の実態把握」を本格的に開始。同検討では過去の厚労科研における糖尿病患者5583例のコホートが用いられるが、ここでの5年の追跡期間における新規肝癌患者数は20人程度。「C型肝硬変からの肝癌のように、100人見て7人見つかるのとはかなりレベルが違うので、広く浅く行わないと解析ができない」(建石氏)。そのため、両学会の認定協力施設344カ所に協力を呼びかけ、糖尿病外来で発生した肝癌患者を新たに200人程度後方視的に収集。厚労科研のコホートと統合したケースコントロール研究を実施していく予定を明らかにした。建石氏は「糖尿病外来通院中に発生した肝癌の実態を明らかにし、同外来で行うべき肝疾患フォローの方法を確立したい」と話している。
・・・・・・
追記:糖尿病が皆、肝臓癌に至る訳ではない。肥満があって、高インスリン血症をきたすようなIGTもしくは2型糖尿病患者がNAFLD(非アルルコール性脂肪肝)を生じ、多くはNAFLDが20年以上経過するとNASHに至ると考えられる。結局、インスリンが過大に分泌される病態が長期間存在するとブドウ糖が内臓脂肪として過大に蓄積されNAFLDつまり栄養性脂肪肝が完成する。
それが時間をかけNASH(非アルコール性肝硬変)、さらにその一部が肝臓癌を発症するということだ。逆にⅠ型糖尿病やⅡ型糖尿病でも早期にインスリン分泌不全に至るケースでは肝臓癌に発症しにくいかもしれない。すなわち高インスリン血症が長期間続く病態、例えば肥満、IGT、軽症~中等症Ⅱ型糖尿病がNAFLDを経てNASHを発症するのではないかと。さらに、このNASHが時間をかけて肝臓癌を発症すると考える。
ところで飲酒はNAFLDの発症に、どれほど関与しているのか考えてみた。例えば、いわゆるアル中は何も食べず朝から酒を飲む。まあ腹が減ったらカップ麺やコンビニのおにぎりを食べる程度で、おそらく顕著にタンパク質摂取が不足している。こういう人はNAFLDというよりアルコール性肝炎から肝線維症を発症しアルコール性肝硬変に至る。例えば連日、居酒屋で飲食をした後にラーメンやアイスクリームを食べたならNAFLDになる。
診察室で患者が、自分の飲酒量を正確に述べることは、多分あまりない。大体、酒飲みは自分がどれぐらい飲んだか記憶にないことが多い。基本的に、起床時に「あ、酒残っているかも」か「完璧に酒残っているわ」と思うぐらいだろう。アルコールがNAFLDへの関与は、ある場合もあるが、関与していないケースもある。NAFLDの発症にはアルコール摂取時に炭水化物を過剰に摂取し、長時間インスリン過剰状態が続くかどうかによると考える。