大人の周期性嘔吐症
- 盛岡減量研究所
- 2016年6月13日
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さらに先日も大人の自家中毒症的な症例に遭遇した。婦人科系の癌で治療中の60歳台の女性だが、空腹になると嘔吐するようになったという。癌の進行は腫瘍マーカーを見る限り進行はしていない。だが嘔吐するという。その方は糖尿病初期でもあったので食事制限を行ない、また偶然にも鬱的な症状もあって、みるみる痩せた。データ的に低アルブミン、低コリンエステラーゼ血症を呈するまで痩せた。
その方のエネルギー代謝はブドウ糖不足→体脂肪消費→遊離脂肪酸→ケトン体、すなわちケトーシスの状態だ。その後、鬱状態から改善したものの糖尿病に対して食事療法を行っていたため、空腹時に容易にケトーシスを生じるようになったと推測した。さらにいうなら極端な体重減少は糖尿病でも非糖尿病でも糖新生ではブドウ糖の合成が賄いきれずエネルギー代謝はケトン体によって行われる。
ケトーシスによる嘔吐症は熟睡中には起こりにくい。その理由はⅡ型糖尿病による高インスリン血症が原因の低血糖からのケトーシスは、糖新生により朝には回復しているからであろう。睡眠中のエネルギー消費は少ないので糖新生で対抗し得る。
その方の婦人科の主治医は癌による、なんらかの通過障害であろうと判断したようだが私はケトーシスと考えている。人間に限らず動物には毒と感じたら吐くという習性があるようだ。透析患者が水を欲しがる時、必ず冷たい水を欲しがる。冷たい水には細菌が少なく安全だというご先祖様からのDNAであろう。極端なケトーシスも毒と感じるDNAを持ったとしても不思議ではない。
治療はグルコース、予防はフルクトース。その量は確定できていない。そういうことで大人の自家中毒症あり得る。頻回の嘔吐による吐血を子供はアセトン血性嘔吐症、大人はマロリーワイス症候群という風に分類されるが、どちらも原因は同じだと考える。子供の頃、吐き癖があった人は気をつけた方が良い。
追記1:例の女性患者だが、眠前のフルクトースで夜中には嘔吐しなくなったが、朝食前に嘔吐するという。朝のケトーシスをどう予防すべきか。グリコーゲンにお願いするしかない。そのためには少なくとも100g以上の糖質を日中から夜半までに刻んで摂取しグリコーゲンを蓄積する必要がある。絶対的エネルギー摂取がすくないと糖新生の機能が減弱し、翌朝空腹時にケトーシスモードから抜け出せないと推測する。
抗がん剤使用中の極度の食欲不振もケトーシスの原因になり嘔吐しないまでも極端な食思不振に陥る可能性がある。癌患者の死因は癌それ自体が原因というより栄養失調であると藤田保健衛生大の東口高志教授が6月10日発売の週刊ポスト誌で解説していた。ちなみにSGLT2阻害剤使用中もケトン体は増加するが糖新生とバランスしているためケトーシスかつ低血糖にはなることはまずない。つまり抗DM薬では、ある程度の血糖値が維持されるので慢性のケトーシスによる周期性嘔吐症を生じることはないと考える。