アルコール性肝障害ALDの実践的治療
- 盛岡減量研究所
- 2016年4月28日
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当地域は東日本大震災の被災地でもあり被災と復興過程の多くのストレスからアルコール多飲の人が増えた。結果としてアルコール性肝障害(ALD)を呈する者も増加した印象である。元々、酒好きだったが仮設の一人暮らしや失職により昼から酒を飲む者も少なからず存在するようになった。治療の基本は禁酒もしくは減酒だが、それがなかなか実行できない。そこで、多少の減酒で留め薬物で薬剤ならび食事指導でALDを治療する選択をした。
基本的に75gOGTTを行い、DM型を示す症例に対して、ビオグリタゾン(商品名アクトス)ならびにSGLT-2阻害剤とさらにミラべグロン(商品名ベタニス)の2剤ないし3剤併用する。HbA1c値は6.5%未満のIGTに対してもでも肝障害が著しい症例が該当する。数値的にはγGT300U/L以上、4型コラーゲン7S 6.0ng/ml以上をもって著しい肝障害を伴ったALDと判断した。またエタノール摂取量が80g/日以上(40度ウイスキー200ml)も付け加え、NAFLD(栄養性脂肪肝)的要素を持つ者を一応排除した。
まずSGLT-2阻害剤を半量から開始するが、より効果を出すため三食とも味噌汁もしくはスープ類を摂らせて、食直後にコップ2杯ほどの水を飲んでもらう。味噌汁、スープ類は糸球体濾過力を上げるための用意である。なぜなら血液中にブドウ糖が上昇しインスリンが分泌される前にブドウ糖を尿に出してやるという作戦である。食後の水もコーヒーや熱いお茶では量が稼げないので最低コップ2杯の水(もしくは冷茶)を飲んでもらう。
初期投与が半量の理由は副作用発現の有無を確認するためである。皮疹などの一般的な副作用もあるが、眩暈など脳浮腫症状の確認である。再診は10~14日後である。以前にも述べたがSGLT-2阻害剤と飲酒は相性が良くない。どちらも脳浮腫の原因になる。またアルコール性低血糖を生じる可能性もある。基本的に2~3週毎での外来診察になる。体重の変化、γGT等のマーカーの変化を月2回はチェックする。(1回は保険請求しない)
ほとんどのケースでトランスアミナーゼは改善するが、改善が乏しい場合ビオグリタゾンを併用する。眩暈など脳浮腫症状が出た場合にはメにレットゼリーを併用するかビオグリタゾン単独使用に変更する。男性の場合、女性より脂肪細胞が多くないこともあり浮腫や肺水腫など来すことは極まれだが心電図、心胸比、HtやアルブミンさらにBNPなどをチェックしておいて体重変化などと共に副作用の評価に用いる。
ところでSGLT-2阻害剤使用時には頻尿・多尿が現れるということでミラべグロンを併せて使用することによってALDの改善は、より期待できる。ミラベクロンは交感神経β3受容体アゴニストだが、β3受容体は膀胱括約筋ならび脂肪細胞に分布しており動物実験では体脂肪を減少させるとされており、ヒトでも有効であると考えられるからだ。
経験上、飲酒者は動物性タンパク質の摂取が不足している場合が多いので、茹で卵や赤身肉など脂質の少ない動物性タンパク質を積極的に摂らせる。肝細胞は動物性蛋白質で構成されているから不足あればダメージを受けた肝細胞の修復ができない。
またラーメンや丼物など単純糖質が多い食品はインスリン分泌が増大するので可能な限り控えるように指導する必要がある。血液中のブドウ糖を中性脂肪として蓄えるホルモンがインスリンであることを良く説明し患者に理解してもらう必要がある。だからといって炭水化物の極端な制限はエネルギー代謝の悪化やリンパ球減少などの血液障害を生じる可能性があるので、最低でも100g(400Kcal)以上の炭水化物は摂らせるよう指導する。
これらの治療続けると体重減少ならびトランスアミナーゼが改善してくるが、数か月で減量耐性による体重減少が止まり、肝機能の改善が停止する。この時、相対的甲状腺ホルモン減少症(測定値は正常ながら軽度のホルモン不足の状態)の状態に陥っていると考えられる。よってTSH、FT3、FT4を測定しチラージンSで補正してやる。すなわちFT4を正常範囲高値に誘導する。チラージンSはT4製剤であり安全性の点で、まずFT4を増やすのだ。
FT4を正常高値に補正してもFT3がまだ十分に増えないときには、チロナミンを用いる。チロナミン5mg夕方1回服用させ、飲酒時の代謝を上げてやる。チロナミンは効果の発現が早く持続時間が短い薬剤なので、夕方1回の服用でアルコールによる糖新生の抑制を抑え、糖新生を上向きにさせる目的もある。チラージンSとチロナミンで相対的甲状腺機能亢進症(正常範囲内のホルモン過剰状態)をつくるのである。
甲状腺ホルモン薬の使用は基本的に減量耐性が出現してから用いるべきだが、当初より相対的甲状腺機能低下症が存在するなら、その使用は妨げない。どこまで肝機能が改善するか半年~1年余の経過を見なければならない。また日々の飲酒は定量化(例えば25度焼酎300mlとか)し、動物性たんぱく質を積極的に(50g/日以上)摂らせるようにし、ラーメンや丼物などの単純食品をできるだけ控えるように説明することが重要だと考える。
ただLC(肝硬変)ステージにあるALD患者については、この限りではない。すなわち低アルブミン血症かつ高アンモニア血症を呈する状態だ。原則的に禁酒してもらうか、飲んだとしてもエタノール30gを頻度的には週に2~3回ぐらいまでであろう。肝臓の線維化が進んでおり少量のアルコールでも、すぐにトランスアミナーゼが上昇する可能性がある。線維化の進んだ肝臓とは線維化の範囲が多く少量のアルコールでもダメージを受ける。むろんLCの場合アミノ酸製剤を当然併用することになろう。
AST、ALTなどトランスアミナーゼは肝細胞再生の目安であり、4型コラーゲン7Sは肝臓の線維化の活動性の指標で目安である。一方、NH3(アンモニア)は肝臓でのタンパク質すなわちアミノ酸処理が上手くできているかの指標になる。またアルブミンは肝臓でのタンパク合成能を推定できるが、タンパク質摂取不足や心不全などによる希釈があるため直接的に役に立たない。ただ慢性の低アルブミン血症の中にLC(肝硬変)は隠れている。
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医者の中には僅かな肝機能障害を呈する飲酒者に禁酒だとか休肝日だとか簡単に指導するが、それは誤りではない。ただ医者は何故そんなに酒を飲むのか?と問うてみたり、その人が酒を飲む理由を勘案しなければならない。飲酒者自身、酒は止めた方が良いと思っている人は少なくないし、本人自身止めたいと思っている人もいる。僅かな肝機能障害で酒を止めろというのは医者として、あまりにもイージーだ。なら「パパあんまり、お酒飲まないで」と愛する娘に言わせた方が効果は高い。