エネルギー代謝から考えたNAFLDとNASH
- 盛岡減量研究所
- 2015年12月4日
- 読了時間: 4分

NAFLDとは非アルコール性脂肪肝でありNASHとは非アルコール性肝硬変である。現在、当クリニックでは多数のNAFLDと数名のNASHを診ている。またアルコール性肝障害からアルコール性肝硬変を生じている症例も数例存在する。非アルコール性とアルコール性の肝障害が曖昧な症例も少なくない。すなわちランチの際のビールの少量の摂取であったり、いわゆる晩酌と呼ばれる少量の焼酎などの摂取で生ずる肝機能障害である。
概念的には毎日の純エタノール摂取量が20g以下の脂肪肝をNAFLDと呼び、60g以上をアルコール性脂肪肝ALDと呼ぶらしい。個人的には動物性タンパク質の摂取不足による肝細胞の修復不足が原因でアルコール性肝線維症を生じる肝機能障害をアルコール性肝炎と理解しているが世間の理解はそこまで深くない。朝から晩まで酒を飲んでいる肝障害の患者は基本的に、まともに食事を摂っていない。亡くなった漫才師YYなどが該当すると考えるが、かなり曖昧な概念である。
アルコールは肝機能障害を生じさせるのか?当クリニックで飲酒番付を作ってみた。まだ途中だが第一位は25度焼酎を900ml毎日飲んでいる60歳代男性だが肝機能障害はない。純エタノールに換算すると225gである。第二位が60歳代男性で焼酎、日本酒などを飲んでいて純エタノール換算で180g前後、肝障害あり。第三位は私で純エタノールに換算すると150g程度で肝障害はない。40度ウイスキーボトル700mlとすると私は毎日ウイスキーボトル半分を飲んでいる。
当院での肝機能評価は血液検査による。その項目はAST、ALT、γGT、chE、T.bil、Alb、NH3、4型コラーゲン7S、血算(血小板)である。赤血球容積MCVや白血球数さらにはγグロブリンやCRPも参考にするが、診断基準には入れていない。本来なら、これらに異常値があれば超音波エコー検査を行い肝腎コントラスト、肝内部エコー、結石の有無等を行う必要があるが、東日本震災の津波で機械が流され、狭いクリニックに移動したため設置できていない。
すなわち脂肪肝とは、余剰な摂取エネルギーが皮下脂肪に蓄積するのと同様に内臓に蓄積したものと説明できる。ところが肥満者でも脂肪肝を生じていない者もいる。そのメカニズムは100%説明できないが、脂肪肝の患者は夜間に高インスリン血症を生ずる食生活と夜間のエネルギー消費が沈滞もしくは低下することが関与していると推測する。
簡単に説明すると夕飯に炭水化物を過剰に摂取し、その後すぐに就寝するケースだ。当地方は第一次産業主体の地域なので朝早く起床し、夜も早く就寝する。問診で驚くのは夕飯が午後6時か7時で、食後2時間以内に就寝するケースが少なくない。さらに食後にデザートを摂り、毎日飯が美味いというのが健康だと考えている人々が数多くいる。そりゃ肥満や脂肪肝だけでなく糖尿病にもなるわ。
ところで摂取エネルギーがそのままで、基礎代謝が仮に10%アップしたらどうだろう。体脂肪はエネルギーとして利用され体重減少とともに肝機能は改善する。栄養性脂肪肝とは体脂肪蓄積と、ほぼ同じ機序で生じている。運動をせずともエネルギー代謝が1.1倍になったら内臓脂肪を含む体脂肪は減少すると考える。逆に減少しなければエネルギー代謝の理論的整合性が取れない。
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先日2013年に文光堂から出版された「NASH・アルコール性肝障害を極める」を拝読した。糖尿病治療薬ビオグリタゾンの有効性が記されており、さらに近々発売されるSGLT-2阻害剤に期待を寄せているというような事が書かれていたが、それでは遅い。ビオグリタゾンは肥大した脂肪細胞を小さくすることでTNFαなどインスリン抵抗性を改善させるだけで、SGLT-2阻害剤は緩徐な糖質制限であり根本的な脂肪肝の治療ではない。
もし積極的な脂肪肝治療があるとすれば糖質制限(特に夜)による減量が基本であり、その上で全身運動だ。そしてさらにβ3刺激剤とSGLT-2阻害剤とビオグリタゾンの併用であろう。最後の切り札は、効果発現が早く、かつ効果の持続が短いとされるT3製剤(チロナミンナトリウム)の夕食後の使用である。T4製剤の安全性は高いが直接的な効果は薄い。
まとめると1日あたりのエネルギー摂取を基礎代謝以下に抑え、高動物性タンパク質摂取と夕食時の糖質制限、さらに夕食後のT3製剤の最小量使用だ。夜間にエネルギー代謝を上げることで内臓脂肪蓄積を減らしめる。それがエネルギー代謝から考えたNAFLDの治療である。ただいずれの薬剤もNAFLDやNASHの適応がないので注意が必要である。
追記:もしNASHに進展し高アンモニア血症や低アルブミン血症を呈していても糖質制限は有効であり4型コラーゲン7Sは改善を示す。またアミノレバンやリーバクトの併用は高アンモニア血症や低アルブミン血症を改善させると考える。逆に過度のタンパク質制限は肝細胞再生やアルブミン合成の妨げる可能性があるので、たびたび血液検査を行い食事に誤りがないかチェックし、誤りがあれば食事内容を是正する必要があろう。