代謝低下に対する甲状腺ホルモン剤投与一考⑴
- 盛岡減量研究所
- 2015年10月16日
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武田薬品の「リオチロナミンナトリウム錠」効能書より引用(一部略)。
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【薬効薬理】
1.体温・エネルギー代謝に対する作用 熱産生の増加、基礎代謝率の上昇、酸素消費の増大をもたらし、これらはチトクローム系酵素蛋白質の増加によると考えられている(甲状腺機能低下症患者、ラット)。
2.成長、成熟に対する作用 成長を促進するが、多量ではかえって成長を抑制する。 骨、歯の成長にも促進的に作用し骨端線の閉鎖を促す(ラット)。
3.蛋白代謝に対する作用 蛋白質合成促進作用を示す。この作用は、RNAポリメ ラーゼの活性の増大、m-RNA生成の促進、リボゾームにおける蛋白生成の促進等によるとされている(甲状腺 機能低下症患者、ラット)。一方、過量では蛋白分解が合成を上まわるためN平衡は負となる。
4.糖質代謝に対する作用末梢組織での糖利用を高め、肝グリコーゲンの分解を促進して血糖を上昇させる(ラット)。
5.脂質代謝に対する作用血清コレステロール、中性脂肪、リン脂質、β-リポプロテイン、脂肪酸等の低下作用を示す(甲状腺機能低下症 患者、ラット)。
6.水及び電解質代謝に対する作用 組織から血液への水分移動促進による血液量の増加、代 謝亢進に伴う循環血液量の増加、糸球体ろ過量の増大等 により利尿作用を示す。また、尿中へのNa、Kの排泄を増加させる(甲状腺機能低下症患者、健常人)。
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種々の理由で代謝が減少し減量耐性が出現した場合、少量の甲状腺ホルモン剤の使用はこれを改善させる可能性がある。一般的には橋本病や甲状腺腫術後の甲状腺機能低下症が甲状腺ホルモン投与の適応になるが、それらの疾患がなくても減量耐性が存在し、かつ基準範囲ながらTSH高値、FT4低値、FT3低値(相対的甲状腺機能低下症)が存在するなら甲状腺ホルモン剤を使用する価値はある。
通常、50kgの女性であればチラージンSは75μg/日が、男性75kgであれば125μg/日が標準的投与量とされているが(南江堂「今日の治療薬」より抜粋)、減量耐性に用いる場合には12,5μg/日~25μg/日に留めたい。もちろんTSH、FT3、FT4は必ず基準範囲を超えない範囲でのコントロールを目標とする。
ただ減量耐性(代謝低下症)にチラージンS(T4製剤)を用いた場合、rT3が増加しFT3が増加しないケースもあるかもしれない。その際にはチロナミン2,5μg~10μg/日を追加する。甲状腺機能低下症の場合、チロナミンは通常25~75μg/日を使用する(能書より)が代謝改善を目的に使用する際、その量は最低量が望まれる。
チロナミン単独使用時、チラージンS単独使用時、あるいは2剤併用時であってもTSH、FT4、FT3ともに基準範囲を逸脱しない範囲での少量使用が望まれる。それは仮に服薬を中断した際、急激な甲状腺機能低下症(徐脈性不整脈や粘液水腫など)を生じることがないよう配慮すべきであるからだ。ステロイドホルモン同様に漸減が原則だと考える。
減量耐性すなわち代謝低下症(相対的甲状腺ホルモン低下症)に対する甲状腺ホルモンによる治療は糖質制限などの減量中の減量耐性だけではない。理論的には脂肪肝、あるいは糖尿病治療や糖尿病治療における夜間低血糖モードの改善などが対象になり得る。ただ現時点では、甲状腺ホルモン剤は減量耐性や脂肪肝、糖尿病などの疾患には医療保険の適応がないので注意が必要である。