
心臓喘息と間質性肺炎
心臓喘息という病態が存在する。これは心不全による心機能の低下から心臓駆出力が低下するため体液貯留をもって心駆出量をカバーするという病態だ。また心機能が保たれていても重症の僧房弁弁膜症があったり、慢性透析患者や高度急性腎不全でも生じ得る。
左心房に容量負荷つまり血流が滞り左心房内の圧が上昇すると左心房に血液を運ぶ肺静脈がうっ滞し肺静脈から水分が溢出する。まずは肺間質に溢出し、さらに負荷が増すと肺胞にまで水分が溢出する。肺間質に水分が溢出した状態を間質性肺水腫、肺胞にまで水分が溢出した場合を肺胞性肺水腫と呼んでいる。
この肺間質といわれる場所は、四肢において浮腫を形成する間質と場所と同様のものであり、過剰な水分のエスケープゾーンと理解できる。間質性肺水腫では初期には無症状だが進行すると咳や低酸素を伴うことがある。特に夜間仰臥位(すなわち睡眠中)になると肺内の血流分布が変化するために咳が出る。この時、いわゆる左心不全(肺水腫)と呼ばれ、通称「心臓喘息」とされる病態である。
また肺胞は肺間質に対して肺実質と言われ、肺胞にまで水が溢出すると肺胞でのガス交換が不良になり絶対的低酸素血症の状態に至る。こうなると心不全は重症であり酸素投与が必要になるため入院を要す。慢性透析の患者や高度腎不全では透析治療が必要になる。
われわれ医者は肺水腫へ至らないように減塩を指導したり、利尿剤や強心剤を用いるが、過剰な利尿剤は腎不全をまねく恐れがあり減塩を優先すべきである。また水分制限を指導する医者もいるが、まずナトリウムが細胞外液に浸透圧を与えて血漿や間質部分の体液量を維持しているので、水分制限よりナトリウム摂取制限すなわち減塩が優先される。
一方、間質性肺炎という疾患が存在する。一般的には稀な肺炎であるが突発性間質性肺炎や慢性関節リウマチなどの膠原病、あるいはHIV感染症の際に生じる肺炎である。これは感染症というより免疫学的な機序で発症する肺炎と理解できる。治療にはステロイドなど免疫を抑える薬剤を用いたり、感染が排除されない場合にST合剤などを併用して治療する。
もちろん薬剤でも生じることが知られているが、かつて小柴胡湯で多く発症した間質性肺炎は甘草に含まれるグリチルリチンによる二次性のアルドステロン症+心弁膜症による間質性肺水腫ではないかと推察する。肝硬変自身、続発性アルドステロン症を生じる疾患である上に、さらにグリチロンの内服やミノファーゲンの静脈注射その上、小柴胡湯を処方していた時代があった。間質性肺炎と間質性肺水腫は心超音波検査で容易に鑑別できるはずだ。