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急性下気道炎

上気道とは口腔や鼻腔の入り口から咽頭さらに喉頭に至る部分であり、下気道とは気管から気管支、細気管支、さらに肺胞までの部分である。気管支炎、肺炎は下気道炎に属する。一般に肺炎とは肺区域性に発症する主に細菌感染症である。また気管支炎とは気管支全体に発症する細菌、ウイルスなどによる感染症である。大きな違いは第一に低酸素血症の有無である。肺区域で発症する肺炎では低酸素血症にはならない。逆に気管支炎では気管支閉塞により低酸素血症を生じることが少なくない。

 

片肺飛行という言葉を聞いたこともあるかもしれないが、片肺でも肺活量の半分は確保されているので過剰な運動負荷がなければ呼吸困難は生じない。まして片肺が正常に機能しているなら低酸素血症にはならない。そもそも片肺を失っても生きていけるように出来ている臓器は肺だけでなく腎臓や眼球などが存在する。すなわち肺炎のような片肺の区域性の炎症では低酸素にならない。おそらくバクテリアの大きさでは両肺の全肺区域に炎症を短時間で起こすことは不可能なのではないかと推測する。

 

気管支炎は両肺の気管支から細気管支に炎症を生じたものであり細菌というよりはウイルスやマイコプラズマなどの病原体が原因となり生じるものである。気管支炎は両肺の気道を均等に塞ぐので低酸素血症を起こすことがある。もしX線写真で肺炎像が存在し、かつ低酸素血症が存在するなら、それは気管支肺炎と呼ぶべき病態である。代表的な疾患はマイコプラズマ肺炎である。基本的に気管支炎はX線に映らない。気管支炎の場合、気管支表面の炎症だけなので水気がない。X線に映らないが気道閉塞を生じ得る。

 

一方、肺炎は肺区域に炎症性の浸出液が貯留するのでX線に映る可能性が高い。もし低酸素血症を呈し、かつX線で肺炎像を示すものがあるとするならば気管支肺炎という診断になろう。マイコプラズマでは必ずしも区域性に肺炎像を示す訳ではない。ただマイコプラズマは細胞膜を有しないため細菌とウイルスの中間的な存在とされており、感染主肺区域から浸潤するように炎症を波及させるのかもしれない。あるいは気管支炎から細菌性二次感染を合併し、初めて肺炎像としてX線に映るのかもしれない。

 

ただハウスダストやダニ、スギ花粉などの気道アレルギーが存在するならば気管支表面の炎症は、より強くなり気道閉塞が進行し呼吸困難や低酸素血症を生じ得る。ちなみに純粋の気管支喘息では咳が無いか、もしくは少ない。気管支喘息の概念はアレルギー反応に起因する「突然生じる呼吸困難発作」である。それはアレルゲン暴露によりヒスタミン等が分泌されアレルギー反応的に気道が収縮し気道閉塞を生じると説明されるからである。ただアレルゲンは直接、気道を刺激することは少なくない。いわゆる咳喘息(コフ バリアント アズマ)だ。

 

一方、気管支炎は咳嗽が主体で気道閉塞は遅れて、あるいは二次的に生じるものである。つまり気管支炎は咳が先で気道閉塞は遅れてやってくる。急性下気道炎に対しては抗菌剤、抗アレルギー剤、ロイコトリエン拮抗剤、さらにはβ刺激剤、ステロイド製剤など、いつ使用すべきか病期に応じて正しく判断できるのがプロの医者であろう。

 

 

<追記>

もしPL顆粒や葛根湯、抗生剤の投与で感冒(気道感染症)を乗り切ろうなんて考えている医者がいるならば、あるいはいたならば、その人は内科を標榜する開業医になってはいけないと思います。内科開業医の基本は感冒を見極めることです。風邪医者と呼ばれてナンボです。

 

 

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