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トリプルミックス(triple mix)を用いた糖尿病新治療

「知って健康!糖尿病 糖尿病とその基準値~境界型」は次のように指摘している。

 

 

  糖尿病型と正常型の間の数値に「境界型」というものがあります。

  これは、糖尿病とはいえないけれど、正常とはいえない、という数値です。

 

  ◆空腹時血糖値

   ・正常型・・・・・ 110mg/dl 未満

   ・境界型・・・・・ 110mg/dl 以上~126mg/dl 未満

   ・糖尿病型・・・・ 126mg/dl 以上

 

  ◆ブドウ糖負荷試験 2時間値

   ・正常型・・・・・ 140mg/dl 未満

   ・境界型・・・・・ 140mg/dl 以上~200mg/dl 未満

   ・糖尿病型・・・・ 200mg/dl 以上

 

  境界型の血糖値の数値の方は、正常型、糖尿病型と、どちらになってもおかしくありません。毎日の生活が乱れることで、

  糖尿病型になってしまう可能性も高いので、安心はできません。

 

  「境界型だから大丈夫!」などとは思わずに、「糖尿病は目の前」という危機感をもって、毎日の食生活や運動、ストレス

  解消などに努めましょう。

 

 

HbA1cでいうなら6.2%が正常上限、6.5%以上が糖尿病と診断される。すなわちHbA1cで判断すると6.3%~6.4%は境界型(IGT)と表現される。われわれ医者は6.5%をもって薬物療法を開始することが基本だが、HbA1cが6.2%以下でもブドウ糖負荷試験で200㎎/㎗を超える境界型糖尿病患者が少なくない。

 

このような場合、私個人の考えでは肥満を呈するケースは少なくなく、インスリン抵抗性を有していると思われる。これは肥大した脂肪細胞より分泌されるTNF-αなどの物質(インスリン抵抗性物質)がインスリンの働きを悪化させているため、過剰にインスリンが分泌されても血糖低下が不十分だと説明される。

 

そして、このような症例では既に脂肪肝を合併しているか、脂肪肝の傾向を示すことが少なくない。脂肪肝とは肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態であるがインスリン抵抗性との関連が深い。過剰なインスリンがブドウ糖を処理する過程で過剰に中性脂肪を合成し、最終的に皮下脂肪もしくは肝臓などの内臓脂肪として蓄積させる。

 

私見では特に夜間、高インスリン状態が存在すると脂肪肝が発生しやすいと考えるが、従来の薬物療法での治療は困難である。脂肪肝治療に必要なことは夜間の高インスリン状態の是正でありインスリン抵抗性の改善である。夜間の高インスリン状態を改善するのは夕食時の糖質(炭水化物)を制限するのが単純かつ合理的である。

 

またインスリン抵抗性を改善するためには減量が一番だが、糖尿病治療薬のピオグリタゾンもまた有効であるとされる。それは肥大した脂肪細胞を小型化することによってインスリン抵抗性物質分泌を低減せしめ、高インスリン状態を改善させることによって脂肪肝の進展を抑制すると考えられる。ただこれだけでは脂肪肝は改善しないのだ。悪化を抑止するだけなのだ。

 

2014年、糖尿病治療薬のSGLT2阻害剤が発売された。これは過剰なブドウ糖を、腎尿細管を介して体外に排出せしめる薬剤なのである。結果、高血糖が是正され糖尿病は改善するという薬理作用なのだが副作用として体重減少が存在する。血液中のブドウ糖が急激に失われることによって反応性にグルカゴンが分泌され蓄積脂肪から遊離脂肪酸合成され、ケトン体は増加しエネルギーとして利用される。つまり結果的に蓄積脂肪は減少すると考えられる。

 

糖尿病患者だけでなく境界型糖尿病患者でインスリン抵抗性を有し、かつ脂肪肝が合併するならばSGLT2阻害剤を用いることによって脂肪肝を改善させる可能性がある。さらにピオグリタゾンを併用することで脂肪肝は、さらに改善すると推測する。

 

実際、当院でも糖尿病患者へのSGLT2阻害剤の使用例で血液生化学検査のAST、ALT、γ-GTは大幅に改善している。ただしHbA1cが低下してくるとSGLT2阻害剤の薬効も薄くなるので、その場合はDPP-4阻害剤などの併用薬剤があれば、それを減薬もしくは中止することが大事である。

 

またSGLT2阻害剤による脱水症を予防するためには、初期からピオグリタゾンを使用し、血糖値やHbA1cはDPP-4阻害剤でコントロールする。そして体重増加を示し始めた段階でピオグリタゾンを休薬し、DPP-4阻害剤とSGLT2阻害剤を併用する。体重が減りすぎる場合はDPP-4阻害剤のみを使用し、肥満や脂肪肝が続く場合にはSGLT2阻害剤のみを使用するべきであろう。膵外分泌保護の観点から、これら3剤の併用は極めて有用であると考え、私はこの治療法をトリプルミックス(triple mix)と名付けた。

 

 

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